最新版ITIL 4を活用したITサービスマネジメント変革とは?|テーラーメイド化
前回は、ITIL 4の主要概念のサービスバリューシステムを構成するコンポーネントの1つである「指針となる原則」を紹介しましたが、今回はITIL4の活用アプローチである「テーラーメイド化」に注目してみたいと思います。
図1. ITIL 4のサービスバリューシステム全体構成イメージ © 株式会社JOIN (図をクリックで拡大)
「テーラーメイド化」とは?
テーラーメイドとは、一般的には洋服を特別に仕立てることを意味しますが、顧客の身体のサイズを細かく採寸して仕立てることで、既製品には無い「快適な着心地と仕立ての美しさ」を得られるのが特長です。
一方、ITサービスマネジメントを洋服の仕立てに例えると、ITIL v3/2011が既製品であるのに対して、ITIL 4はテーラーメイドであると言えます。
つまり、ITIL 4の書籍に書かれていることを、そのまま各組織が採用し適応するのではなく、各組織の企業理念やビジネス戦略、IT戦略などを細かく採寸して、それらにフィットするようにITIL 4の概念と知識を取捨選択し、カスタマイズして採用し、組織にとって快適で仕立ての美しいサービスバリューシステム(図1)に仕立てる必要があります。
このITIL 4の採用と適応のアプローチをテーラーメイド化と呼びます。
ガイドブックの活用
ITIL 4を活用して組織にフィットしたサービスバリューシステムをテーラーメイドし、実践可能なITサービスマネジメントをデザインするためには、「ITIL® Foundation ITIL 4 Edition」で紹介されている概念と知識だけでは十分ではありません。
そこで役立つのが、ITIL4の資格であるITIL Managing Professional (MP) とITIL Strategic Leader (SL)向けに提供される5冊のガイドブックです。
ITIL Managing Professional (MP)とITIL Strategic Leader (SL)は、ITIL v3/2011の資格であるITIL Expertに相当する資格であり、MPは実践的な技術とマネジメントの知識を持つプロフェッショナルを、SLはビジネス戦略とIT戦略を整合させるリーダを育成するのが目的です。
さらに、プラクティスに関するガイドブックが、プラクティスごとに提供されており、主にMPが実践的なバリューストリームとプロセスをデザインするために活用できます。
この2つの資格取得に向けて提供される5冊のガイドブックと、プラクティスごとのプラクティスガイドを、各組織におけるサービスバリューシステムのテーラーメイド化において参照することで、実践可能なITサービスマネジメントをデザインすることができます。
ガイドブックの体系
各ガイドブックについて、記述されていることのフォーカスエリアと、主な記述内容をまとめたのが表1です。
資格 | ガイドブック名 | フォーカスエリア | 主な記述内容 |
ITIL Strategic Leader (SL) | Digital and IT Strategy (DIS) | サービスバリューシステムの開発に必要な、デジタルビジネス戦略とIT戦略を整合させる活動 | •デジタル戦略とIT戦略の整合 •技術の破壊、組織への影響、およびビジネスリーダーからの反応 •ビジネスリーダー向けの戦略レベルの議論 •効果的なIT戦略とデジタル戦略を実装し、破壊的な技術に取り組む |
Direct, Plan & Improve (DPI) | サービスバリュー・チェーン内の計画と改善の活動領域 | •戦略と方向付け •アセスメントと計画 •測定とレポート •継続的改善 •コミュニケーションと組織レベルの変更管理 •SVSの開発 |
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ITIL Managing Professional (MP) | |||
Drive Stakeholder Value (DSV) | サービスバリュー・チェーン内のエンゲージの活動領域 | •サービス関係モデル •カスタマージャーニーとバリューストリームのデザイン •タッチポイントとサービス相互作用 •カスタマージャーニーの7つのステップ(探索、エンゲージ、提案、合意、オンボード、共同作成、実現) |
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Create, Deliver & Support (CDS) | サービスバリュー・チェーン内のデザイン&トランジション、オブテイン&ビルド、デリバリー&サポートの3つの活動領域 | •効果的な組織/チーム/役割/人材管理/カルチャー •効果的な情報と技術の活用 •バリューストリームのデザイン •優先度付けとソーシング |
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High Velocity IT (HVIT) | サービスバリュー・チェーン内のDX領域に特化した活動 | •High Velocityな価値実現のために、バリューチェーンの活動領域に適用するテクニック (Lean /Agile /Resilient /Continuous) 例:MVP, CI/CD, Kanban, DevOps, Peer review |
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SLとMP共通 | Practice Guides | 各プラクティスの活動 | 各プラクティスに関する補完資料で、用語の定義、成功要因、4つの側面(組織と人材、情報と技術、パートナーとサプライヤ、バリューストリームとプロセス)ごとの考慮すべきWHATとHOWなどが記述されている。 |
表1. ITIL Managing ProfessionalとITIL Strategic Leader向けガイドブック一覧
また、各ガイドブックがカバーする、サービスバリューシステム上の領域を示したのが図2です。
図2. ガイドブックとサービスバリューシステムの関係 ©株式会社JOIN (図をクリックで拡大)
テーラーメイド化の進め方
これまでITIL v3/2011を活用してITサービスマネジメントを実施してきた組織においては、ITIL 4のサービスバリューシステムにすべて置き換えるというウォーターフォール的な進め方は、効果的ではありません。
現在の組織のビジネス戦略や計画において優先的に解決すべき重要課題にフォーカスして、現在実践されているITIL v3/2011をベースにしたITサービスマネジメントプロセスと機能の、その重要課題に関する部分に対してITIL 4の概念や知識をアジャイル的に適用することが効果的です。
例えば、デジタルトランスフォーメーションが組織の重要課題であれば、ITIL Strategic Leader (SL)向けのガイドブックである「Digital and IT Strategy (DIS)」を参考にしてIT戦略を見直し、さらに「Direct, Plan & Improve (DPI)」を参考にしてIT戦略の実行に向けたガバナンス体系を見直すことで、デジタルトランスフォーメーションによる価値実現を、継続的にモニタリングしコントロールすることが可能になります。
また、顧客のエンゲージメント強化が組織の重要課題であれば、ITIL Managing Professional (MP)向けのガイドブックである、「Drive Stakeholder Value (DSV)」を参考にして、ITIL v3/2011をベースに整備したITサービスマネジメントプロセスの活動の中から、顧客やユーザとのタッチポイントをすべて洗い出し、カスタマージャーニーとバリューストリームの視点からデザインし直すことで、エンゲージメント強化を推進することができます。
また、ITIL v3/2011をベースに整備した特定のITサービスマネジメントプロセスの改善が組織の重要課題であれば、ITIL Managing Professional (MP)向けのガイドブックである、「Drive Stakeholder Value (DSV)」と「Create, Deliver & Support (CDS)」、「Direct, Plan & Improve (DPI)」、さらに該当するプロセスに関連する「Practice Guides」を参考にして、プロセスをバリューストリームにデザインし直すことで、ステークホルダーへのさらなる価値提供を実現することができます。
このように、組織の課題に合わせてガイドブックを組み合わせて活用することが、効果的なテーラーメイド化の進め方です。
今回、ITIL 4の活用アプローチである「テーラーメイド化」をテーマにして、ITサービスマネジメントの変革アプローチをご紹介しました。
次回は、各組織におけるITIL 4を活用したITサービスマネジメントの「テーラーメイド化」で必要な「デザイン思考」について考えてみたいと思います。
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